2022年度 研究大会の報告

     主  題  漢文が創る深い学び
     期  日  令和4(2022)年 12月2日(土)

 

 2022年12月2日(金)広島大学附属中・高等学校(第1研修室)を会場に開催されました。昨年同様、対面とオンラインを組み合わせた研究大会となりました。多くのみなさのご理解とご協力の下、実りの多い研究実践・交流の場となりました。感謝いたします。

以下、簡単ですが、研究授業と研究発表のまとめを掲載しました。
これからもともに学んでいきましょう。

授業のまとめ

広島大学附属中・高等学校 朝倉孝之   「五十歩百歩」

 中学校の故事成語教材として載っているのは「矛盾」が最も多く、「五十歩百歩」は案外少ない。前者は法家、後者は儒家の書であるが、教科書採録部分では思想そのものは後景に下がり、ともに対話の場面が前景化されている。

 さて、「五十歩百歩」であるが、梁の恵王が孟子の言うとおり「慈しみの政治を行っているのに隣国より人口が増えないのはなぜか」と問う。孟子は「王好戦。」と戦争のたとえで「以五十歩笑百歩則何如」との問いをもって返し、王自身に「不可也」と答えさせる。

授業ではこの巧みな対話の方法、説得の方法を気づかせ、二人の言葉のやりとりを寸劇で表現させようと試みた。後者についてはもっと時間をかけたほうがよかった。劇化するとき、二つの異なる時間が流れをどのように表現するか、即興ではさすが難しかった。生徒たちはよく考えて工夫していた。

静岡県立御殿場南高等学校 望月勇希       「借虎威」

 故事成語として伝えられたことばには、そのことばが語られた場面や、伝承の過程が現代まで伝わっているものが多くあります。「虎の威を借る狐」として人口に膾炙している「借虎威」寓話は、戦国時代の楚の国において、江乙が楚の宣王を説得するためのことばとして語られ、前漢末の劉向の手を経て現代まで伝わってきています。劉向はこのエピドードを「君不用則威亡矣。」(君主が権威を用いなければ権威は滅びてしまう。)(『新序』雑事二)と論評し、君主のあり方を問いかけています。

 そこで授業では、江乙が楚の宣王を説得する部分を資料として提示し、虎、狐、百獣が比喩しているものを理解した上で、江乙の意図を検証しました。さらにそれを踏まえて、王はどのように行動したのかということを考えてみました。江乙が王に対して行動を迫る場面を追体験しながら考える中で、ことばの多様な解釈や、王の行動の多様な可能性について考えを深め、伝え合うことができたのではないかと思います。

研究発表

海星高等学校 植田 隆

研究発表のまとめ

 学習指導要領が改訂され、国語科でも科目編成が大きく変わり、新たな授業科目が始まっています。このような時代にあって、漢文を学ぶ価値をどのように考えていくのか、改めて問われる機会も多くなりました。本発表では、「認識と文体」という問題を漢文を通して学習する在り方を検討しました。「エクリチュール」論の整理から、漢文において認識と文体のかかわりを示す事例として、「駢文」から「古文」への「古文復興運動」を取り上げ、そのうえで、駢文「春夜宴桃李園序」(李白)と、古文「雑説」(韓愈)を比較し、それぞれの文体の違いとそれを支える認識の違いを考える授業を構想・実践しました。

 授業は思うように行かない部分もありましたが、研究協議で、「認識と文体」を考えることから、どのようなゴールを設定することができるかというご意見もいただき、今後への足がかりとなったのではないかと思います。