主 題 | 漢文が創る深い学び |
期 日 | 令和3(2021)年 12月4日(土) |
2021年12月4日(土)広島大学附属中・高等学校 第一研修室を会場に開催しました。会場参加は広島県内の方に限り,県外の方はオンライン参加となりました。4Kカメラを駆使しての実況は,初めての経験でしたが佐藤大志先生(広島大学),山田和大先生(広島県教委)の活躍で,臨場感溢れる展開となりました。授業・講演の詳細は次号の『漢文教育』に掲載されますので,簡単な報告をいたします。
小松英生会長の挨拶の後,鶴田めぐみ先生(県立福山工業高校)による,李白「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」(中2)の研究授業を配信しました。授業は附属中学校で事前に収録したものです。以下に,鶴田先生による振り返りを載せます。
漢文研究大会 授業のまとめ
広島県立福山工業高等学校 鶴田 めぐみ
言葉はその言葉を生み出す人だけなく,それを受け取る人の存在により価値を生みます。授業では「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」という李白が広陵にゆく孟浩然へ送った送別の詩を取り上げ,その詩に込められた意図と思いを考えました。李白は去り行く孟浩然に,孟浩然の去った後の自らの様子を表現し別れる寂しさを込めています。李白の思いを考える手立てとして「唯見」という言葉をマスキングし,この個所にどのような意味の言葉がふさわしいかを考えさせる活動を行いました。一つの言葉,一つの動作,その様子を表す表現を想像することで別れの寂しさ,友が去ってしまった孤独さ,孟浩然の姿がなくなるほど経過した時間の長さといった詩の世界が立ち上がってきます。この一言に込められた思いを紐解くことで言葉の持つ想像性を考えさせる授業となりました。
二つ目は朝倉孝之(附属高校)による,韋応物「秋夜丘員外」詩(高Ⅰ)の学習を配信しました。授業は,同様に事前に収録したものです。
「秋夜寄丘員外」は官を退き臨平山に隠栖する丘丹に寄せた詩です。『唐詩記事』には「丹隠臨平山,与韋蘇州往還。」(丹臨平山に隠れ,韋蘇州と往還す)とあります。前二句・後二句に分けてよむか否かについ て,異なった考え方があります。すなわち前二句を実,後二句を虚とよむか,「空山松子落」までを実景とよむかです。
授業では前二句の丘丹を懐う明解さをよみとったのち,後二句をどのように読み解くか生徒に考えさせ,発表させました。当然,結論は出ませんでしたが,それぞれがどうようによんだかということを感じあえた授業だと思います。
釈大典はこの詩を「語浅而意遠」(語浅くして意遠し)と評しています。
午後に入って,小川恒男先生(広島大学大学院教授)の講演をいただきました。演題は「王維『但聞人語響』について」です。中・高の教員は研究者の研究成果の上に教材研究・授業を行っています。(あまり意識していないところもありますが)今回は,小川先生に無理を言って,文学研究の方法をわかりやすくお話しいただきました。
中・高の教科書に掲載され,人口に膾炙する唐詩も未知の世界があります。例えば,テキストが異なれば詩語の異動もあります。李白「静夜思」も『唐詩三百首』巻七によれば詩題は「夜詩」であり,第三句は「挙頭望明月」となります。そして今回の講演の中心テーマである「但聞人語響」(王維「鹿柴」)については,精緻な解釈により漢語と日本語の関係まで明らかになっていきました。
厳格な文学研究のあり方を目の当たりにすると同時に,さりげないユーモアに包まれた小川先生の講演でした。
最後に,今回の4K一式は附属小学校の間瀬校長先生からお借りしたものです。(マニアック)多謝。
新型コロナが今後どのような展開を見せるのかはわかりませんが,ひとの大切にしているものを大切にしながら,生活していけたらいいなと思います。また,お目にかかりましょう。 (朝倉記)